はぎの
2020年から始めたこの企画も4年目となります。今年も、琉球大学教育学部に関心をもってくれている受験生や高校生の皆さんにお届けするため、教育学部を知り尽くした4年次のお二人に、教育学部で過ごす学生生活の話をうかがいます。よろしくお願いします。
はぎの
まずは恒例の質問からです。お二人は、なぜ琉球大学、そして教育学部、そして今所属している専修に進むことを選んだのですか?
りょうま
ぼくは中学校のころから何かスポーツに関わる仕事がしたかったのと、陸上や駅伝をやっていて教職員の方にとてもお世話になったんです。なので、自然と保健体育の先生がいいなと思い始めました。高校に入って、1年生のとき学校全体で琉大のオープンキャンパスに参加して大学案内の冊子を見たら、教育学部に保健体育の教員を養成する専修があることに気付いて、「ここしかない!」と思いました。
みみ
私はもともと小学校の先生になりたいという気持ちはあったのですが、どこの大学ということはなかったんです。でも、高校1年で琉大のオープンキャンパスで学校教育専攻の説明会(※1)に参加したとき、先輩の皆さんがキラキラしていて、みんな仲が良くて一緒に何かをやる!という感じが伝わってきて、「すてきだな、ここに来たいな」と強く感じました。
はぎの
学教(学校教育専修の略称)のオープンキャンパスに来たら先輩がキラキラ・・・って、一昨年くらいの学生のインタビューでも聞いたような気がする(笑)。
みみ
ほんとですか(笑)。それで学教に入学して、2年次で専修を選択する段階で、子ども教育開発専修を選びました。子発(子ども教育開発専修の略称)の「学校をとりまく地域のフィールドを通して子どもを理解する」というコンセプトに魅かれたんです。
はぎの
小学校の教員になるために、あえて地域を通して子どもを見たいと・・・。
みみ
さっき話したように私は小学校教員になりたいという気持ちだったのですが、子どもたちを本当に理解するには、学校での姿だけを知っていてもダメなんじゃないかと思っています。あと、幼稚園の免許が取りたかったので、免許を取りやすい時間割が組まれている点でも子発がいいなと思って。
はぎの
じゃあ、みみさんは小学校と幼稚園の両方の免許を取るのね。りょうまさんは・・・。
りょうま
ぼくは中学校教育コースで、卒業後も中学校教員になりたいと思っていますが、免許は小学校も取るつもりで頑張っています。
はぎの
二人とも、なりたい自分が見えていたうえで教育学部に入学したわけだけど、楽しみにしていたはずの学生生活の始まりが、コロナ禍突入に重なったのね。入学式も1年では出来なかった・・・。
みみ
はい。
りょうま
はい。
はぎの
そういう意味では、思いがけない入り方をした大学生活だったわけだけど、そのあたり、今振り返ってみて、どう?
りょうま
ほんとに入学直後は、大学の中での授業がなくて、思い描いていた和気藹々とした学生生活もなくて、戸惑いました。でも、体育は対面でしかできない授業が多かったので、感染対策をしながらも、あまり間を置かずに他の学部や専修より早く対面の授業が戻ってきたので、そういう意味ではラッキーでした。けれど保健体育専修の専門科目だけが対面で、他の教職科目などは全てオンラインだったので、専修内の先輩や同級生とのつながりは出来たけれども、他の専修の人とは全く関わることがなくて、友達もできないのが残念でした。もともと保健体育だけ棟も違うから(※2)絡む機会が少ないのに、授業ですら関われないので。
はぎの
共通教育もですけど、教育学部の教職科目は学部生全員必修で人数が多いから、なかなか対面に戻れなくて・・・ようやく今年からですね、対面が全面的に復活したのは。
りょうま
はい。最後の1年でようやく。残り1年ですけど、いろんな人と関わりたいですね。
はぎの
昨年の教育実習(※3)は、なんとか通常どおりの対面でできたよね。
りょうま
そうですね、給食とかは制限がありましたけど、ほぼ普通にやれたので、そこでは他の専修の人とも楽しく交流できました。
みみ
私は1年の前学期は1つも対面の授業がなくて、しかも行動制限もあって自宅からほとんど出ない生活で、窮屈だし友達も全然できなくて、つらかったですね。でも、1年の後学期になると、講義系はあいかわらずオンライン中心だったけれど、実習系の授業で附属小学校を参観できたし(※4)、学教の授業ではフィールドにも出られました。私は子ども食堂での体験を選んだので、子どもとも関われました。あと、小学校教科科目の体育の授業では対面だったので、後学期からは友達もできて、お昼ご飯を一緒に食べたりして、楽しい大学生活が少しずつ送れるようになったかな。
はぎの
教育学部は確かに他の学部よりは、対面に戻す割合が高かったですね。
みみ
3年次になると、学生用の学科室に入れるようにもなったし、教科教育法の授業などで他専修の子たちと模擬授業を一緒にやるようにもなって、いろいろな人と仲良くなれました。そう考えると・・・コロナ禍ではあったけれど、意外と人と関われた大学生活だったかなという気がします。
はぎの
ちなみに附属小学校の教育実習ではどの学年に入ったの?
みみ
2年生です。すごく可愛かった(笑)。
はぎの
だよね(笑)。りょうまさんは保健体育専修の特性で対面での体育系の授業、みみさんは学校教育専攻や子ども教育開発専修の特性でフィールド系の授業があったということで、コロナ禍でも、ある程度仲間と関わりながら大学生活を送ってこられたということで、安心しました。
はぎの
これまでの大学生活を振り返って、印象に残っている授業について教えてください。
みみ
2年生前学期の「子ども学フィールドワーク」です。これは子発の専門科目で、学生は3つのフィールドから1つを選択するんですが、私はフィールドとして「日本語教室」を選びました。ルーツが外国のために日本語が喋れなかったり、生活場面ではペラペラ話せても学習場面では教科特有の用語が難しかったり、そういう子どもたちが通級する公立小学校の教室です。この授業での活動はあらかじめ用意されたものではなく、1からすべて自分たちで企画するんです。
はぎの
試行錯誤しながらね。
みみ
私たちのグループは、七夕を取り上げた実践の授業を、まだコロナ禍だったのでオンラインでやったんです。七夕は日本の文化ではあるけれども外国にも七夕の風習をもつ国があるので、それとつなげてみたり、短冊に書くお願いする文の型「~ますように」というのを意識しながら、日本語で表現する活動をしたり。そういったことを、対面ではなくオンラインで、どうやって子どもたちを楽しませられるか、すごく考えて。ほんとに試行錯誤だらけでした。
はぎの
それで、どんな工夫を?
みみ
感染症対策で直接子どもたちに会えないので、子どもたちがいない放課後に学校に行って、短冊をぶらさげる木を運び込んで、そこに私たち自身の願いを書いた短冊や飾りを付けました。それをヒントにして、子どもたちも同じように活動できるよう、短冊や飾りの材料を置いてきました。それから、授業の中で三択クイズをしようということで、選択肢の番号を上げる札をつくりました。あと、七夕の由来を知ってもらう動画を、アニメーションで自分たちの声を吹き込んでつくったりもしました。日本語もわかりやすい言葉を選んで。こういったことを、みんなで初めからつくりあげたので、達成感もすごくあって、今でも強く印象に残っています。
はぎの
そういえば、この授業、新聞の取材を受けたんじゃなかった?
みみ
はい!七夕ではなくて、スピーチ大会の活動のほうでしたけど、新聞にも出ました!
はぎの
この授業を通して特に意識していたことってありますか?
みみ
中にはうまく日本語を話せないせいで、授業など学校生活の中で活躍する機会が少ない子もいます。だから、七夕の授業でもスピーチ大会でも、「この子たちが輝ける場にしよう」という思いを念頭に取り組みました。この活動を通して、一人一人の子どもが輝ける場をつくることがすごく大切だな、と学びました。
りょうま
自分が印象に残っているのは、保健体育専修の専門科目「器械体操」です。専修専門科目の「水泳」と「器械体操」は、うちの専修の中でもハードルが高い科目で、ぼくは「水泳」のほうは1年次でクリアしたんですけど、「器械体操」は求められるレベルがほんとに高くて。
はぎの
というと?
りょうま
たとえばマット運動はバク転まで出来なきゃダメだし、鉄棒は、校庭にあるようなのじゃなくて、体操競技で使う本格的な高さの鉄棒なんです。
はぎの
そんな内村航平さんがやるみたいな(笑)?
みみ
(笑)
りょうま
(笑)
りょうま
そんな鉄棒、やったことはもちろん触ったこともないから、最初はびっくりでした。
はぎの
まさか、車輪とかもしちゃうの?
りょうま
車輪は、もしもやれたらボーナス点が付きますね(笑)。そこまではいかないけれども、とにかくあの高さで技をするのは大変だから、先輩が補助指導に来て、コツを教えてくれたり実践して見せてくれたりするんです。そこで、先輩との交流もできて。ぼく自身が単位を取得できてからは、自分が教える立場になって、そこで「体育の先生ってこんな感じなんだな」と感覚的につかめたのが、大きかったです。難度は高かったけれども、この授業をクリアしたことで、将来生徒にも教えられるっていう自信もつきましたね。
みみ
体育館で、その様子を見たことがあるんですけど、鉄棒ほんとに高くて!それに保健体育の学生って、授業外でも練習のためにプールで泳いでいたりして、自主練頑張ってるよね。
りょうま
うん。その自主練も一人でやるんじゃなくて、みんなで励まし合いながらやるから、仲間意識が強くなるのもいいんですよね。あと、座学の授業についても話していいですか?
はぎの
もちろん。
りょうま
座学で、三輪先生(※5)の「運動学」という講義なんですけれども、運動学をどう教えるかという内容のテキストを予め読んでから、出席するんです。そして、「アナログパワーポイント」と呼んでいるB4の紙に重要だなということをその場で書き込みながら発表するから、頭はフル回転しっぱなしです。1時間半の授業時間喋りっぱなしで、ほんとに疲れるんですけど、1時間半があっという間で、終わってみると楽しかったという気持ちが残るんです。自分の伝える内容と友達の伝える内容、自分の伝え方と友達の伝え方、それぞれ結構違っていて、「いろいろな考え方ややり方があるんだな」と実感できるのも面白いです。今まで受けたことがないタイプの授業だったこともあって、座学の中では印象に残っています。
はぎの
アメリカの教育学者による「ラーニングピラミッド」っていう有名な教授論があって、どのような教授手法だとどのくらい学び手の身に付くかっていう理論なの。それによると、ただ講義を聴くだけではほとんど身に付かない、自分で誰かに教えるところまでやるとほぼ完璧に身に付くっていうことなんだけど、三輪先生の授業はまさにそういう授業ですよね。アウトプットすることで、ほんとうの意味でのインプットができるんだよね。
りょうま
はい。
みみ
私たちのような、小学校の教員免許を取るために受講する「体育」の授業(※6)は、砂川先生(※7)がご担当なんですけれども、跳び箱ひとつとっても、砂川先生の教え方がすごく上手で。
りょうま
うん、あれはすごい!あ、この「体育」には、ぼくたち保健体育専修の学生は、アシスタントティーチャーのような立場で参加するんです。
はぎの
なるほど。
りょうま
で、跳び箱の授業で、砂川先生から「今日はりょうまが先生だからな。ここにはこんなにたくさん跳び箱の跳べない子どもがいる。どうやったら全員跳べるようにできる?」って、まず言われて。
みみ
跳べない子ども、私たち学生のことです(笑)。私、そのとき、受講してたかも(笑)。
りょうま
で、まずは子どもたち・・・学生ですけど(笑)・・・彼らがトライする様子を観察して、「なるほど、どうやら踏み切り板をうまく使えていないな」と思って、ひたすら踏み切りをさせていたんです。そしたら砂川先生に、「それじゃ跳べるようにならないよ」って。
はぎの
うん。
りょうま
「子どもが跳べないのは、恐怖心が原因だから、まずは、危なくないんだって実感させないと」っておっしゃって、踏み切り板を取って、1段の跳び箱から始めて、跳ばすんじゃなくて「降りる」を経験させるんです。次には四つん這いで、また「降りる」。とにかく「降りる」感覚をつかませる、逆算なんですね。で、その感覚を経験させてから、「踏み切り板がなくてもここまで跳べるんだから、踏み切り板があればもっと跳べるよ」って、そこで初めて踏み切り板を持ってくるんです。そうしたら・・・みんな・・・ね・・・
みみ
そう、跳べました!
はぎの
跳べるのと同時に、教授のコツも実感できるんだ・・・やっぱりプロってすごいね。
みみ
すごいです(笑)。
りょうま
すごいです(笑)。
はぎの
大学生活の中で、今後教職に進む自分にとって意味があったと思える、授業以外で頑張ってきた活動があれば、ぜひ聞かせてください。
みみ
私は1年次から4年次の今まで、意識的にボランティアに参加してきたつもりなんですけれど、特に今の自分に大きな財産となっているのは、3年次の夏頃から始めた、母校の小学校で授業に入り込んで活動する学習支援のボランティアです。教育実習とはまた違って、いろんな学年に入らせていただくので、それぞれの学年の子どもの姿に触れることができます。子どもって「え?こんなとこで、こう動くの?」という想像もしなかった行動に出て、驚かされることばかりですけど、そこでの先生方の対応を見て「ああ、そうするんだ」と初めて知ることが多くて、ほんとうに勉強になります。
りょうま
いろんな学年に入ってるんだ?
みみ
去年はそうでした。でも今年は年度初めから学校に関われていたので、1年生に貼り付いています。初めて小学校に通う子どもたちに学校を嫌いになってほしくないという願いが先生方にあるので、子どもの心を引き付けるいろいろな工夫が見られて、面白いなって思いながらも、とても学びになります。
はぎの
実習では2年生、ボランティアでは継続的に1年生。それで幼稚園の免許も取るんだから、低学年の子どもと関わるのが得意な先生になれそうだね。
りょうま
ぼくはあまりボランティア経験がないんですが、継続してバイトで塾の講師をやっています。小学生から高校生まで、いろんな年代の子がいる塾なので、発達段階によって子どもは違うんだって実感します。中学生と小学生とでは、やる気の出させ方も違って、それを知れたのが大きい気がします。中学生だと、自分の苦手なところを自覚していて、それを埋めるために塾で勉強しようと思っているんですが、小学生だと親に言われて来ているみたいな感じだから、著しく(笑)モチベーションが低くて。中学生や高校生だと、定期試験や受験を意識するから、「これは目標を達成するためだ」「これは将来のためだ」という言葉もすんなり受け入れてくれるんですが、小学生に関しては、ずっと集中もできないから、楽しみを入れつつ、休憩を入れつつ、とりあえずゴールを決めて「ここまで頑張ろうか」と励ますんですけど、それすらも・・・
はぎの
それすらも(笑)。
みみ
それすらも(笑)。
りょうま
それすらも、「今日はやらない日だから」とか言ってきて。「あ、そうなんだ、やらない日っていうのもあるんだね・・・」って返すしかない(苦笑)。もう、何が正解なのかも自分でわからなくて、四苦八苦してます(笑)。
はぎの
(笑)。
みみ
(笑)。
りょうま
卒業するまでには見つけたいですね、小学生に効く方法を・・・あ、でも、褒めると喜びますよ。「お~、すごいな、できるじゃん!」って大げさに言うと、「できるよ!」って得意げに(笑)。
はぎの
(笑)。いや、でも、その苦労も含めて、いい経験だよね。小学生に「将来」って言ってもピンとこないところを、目の前の目標をぶらさげながら、どうやって先を見せるか、これからつかまなきゃね。でも、今は苦労していても、中学校の先生になりたいりょうまさんが小学生を知っているのは、ゆくゆく強みになると思う。
りょうま
そうですね。
はぎの
それに、りょうまさんはボランティアしてないって言ってたけれど、体育の授業でアシスタントに駆り出されるわけでしょ、それはボランティアに近い経験だよね。
りょうま
あ、確かにそうですね。そうか、考えてみれば、去年、宮城先生(※8)の仲介で中城の小学校に水泳の指導員として入ったことがありました。
はぎの
それ重要(笑)。
みみ
(笑)。
りょうま
2年生、5年生、6年生の授業に、自分で授業するわけではないんですけど先生の補助として入って、すごく勉強になりました。小学生には専門用語はわからないから、どうやって伝えようか工夫して。特にいい経験になったのが、安全管理の面。大学での模擬授業では、ほとんど安全が脅かされることはないんですよ、みんな大学生でわかっているから。だから、安全管理のことを指導案にも書きはするけど、形だけになっちゃうんですよね。でも、小学生を相手にしてたら、見ていて安全面がすごく怖いことを実感します。プールサイドで騒いでるから「お~、落ちる、落ちる、落ちる~!」ってハラハラしたり、「もう上がれ」って言ってもなかなか水の中から上がってくれなかったり。
はぎの
(笑)。
みみ
(笑)。
りょうま
子どもにとって水は魅力みたいで(笑)。5年生なんか、「泳げない子もいるから、これからみんなで水の中を輪になって歩くよ」って指示したら「は~い」って返事をしたくせに、スタートしたらいきなり泳ぎだして。しかも、泳いでるから、「止まれ~」って言っても指示も聞こえないし。本人は真剣に泳いでるんですけど・・・
はぎの
そもそも出発点で、人の話を聞いてないわけね(笑)。
りょうま
子どもの中には「泳ぎたい」っていう強い欲求があるせいで、止めるのが難しい(笑)。
はぎの
いずれにしろ、指導員はすごくいい経験だよ。それに加えて、専修専門科目の「器械体操」だって、先輩として後輩に教えてあげるわけでしょ。
りょうま
はい、でもそれは、自分がやりたいから行く、みたいな感じでした(笑)。先輩にしてもらったことをお返しする意味でも、自分が得たものを後輩に伝えるのは大事だなって思います。それに、同級生を一緒に教えていても、何を大切に教えるかが、それぞれ違っていて。たとえば鉄棒の逆上がりだと、ぼくは腕を意識することが重要だと思うんですけど、友達の中には意識しないようにすることが重要だって言うやつがいたり、足の振り上げを意識することが重要だって言うやつがいたり。いろいろな見方があるんだって実感できたことも大きかったですね。
はぎの
それぞれの卒業研究について聞かせてください。
みみ
私は、ロールレタリングが小学生の自己受容と他者受容にどう影響を与えるのかという研究をしています。ロールレタリングというのは手紙を書くことによる心理技法の一つで、例えば、ノートの1ページ目に、身近な人に向けて、子どもが何でも思いついたことを書いていくんです。ポジティブな気持ちはもちろん、普段口に出せないようなネガティブな気持ちを吐き出してもよくて。書き終えたら数日、時間を置いて、今度は次のページに、手紙を受け取った人、たとえば母親宛の手紙なら母親になったつもりで、本人が返事を書きます。ロールレタリングは、内面をさらけ出すことで自己を見つめて、自己をありのままに受容できるようになるという効果があるので、自己受容の変容を見ていきたいです。それにロールレタリングは自己受容だけでなく他者受容の変容も見取れることが先行研究でわかっているので、そこまで深く追究できるといいなと思ってます。
はぎの
子どもたちが手紙を書きそうな相手は・・・。
みみ
さっきも例に出した「母親」といった家族、あとは「先生」とか「友達」とか。友達でも、「仲の良い友達」であったり「けんかした友達」であったり、色々考えられるので、子どもたちのイメージを広げたいなと。子どもたちへの実践は、これからなんです。支援で入っている小学校の児童二人に、深く関わりながら、やってみたいと思っています。
りょうま
子どもたちは、どんな返事を書くんだろ?
みみ
指導教員の岡本先生(※9)の授業の中で、母親だったり、印象に残っている先生や友達だったりを想定してやったことがあるんですけど、たとえば母親から自分に向けての返事として、私がイメージしているのは・・・「あなたはよく友達とけんかをして帰ってくるよね。でも、けんかをした時にはいつも自分からごめんねと謝りに行って、えらいよ。あと、本当は心優しくて、この前は忘れ物をした友達のこと助けてあげたんだってね。お母さんはあなたのことを誇らしく思います。」・・・こんな感じの手紙です。
はぎの
あ~、すてきだね。いい感じで自己肯定できてる。
みみ
でも実際の子どもたちは、そうはいかないのかなという気もしていて・・・「あなたはいつも叱られてばっかりだよね。もっとしっかりしなさい!」みたいな、ネガティブな内容を書いてくるかもしれません。でも、その返事を書きながら子ども自身が「自分はこういうところが問題なんだ」という気づきを得た様子であれば、一緒にこれからどうしていきたいか考えてあげればいいですし、落ち込んじゃった様子であれば、「でも、〇〇さんはこういう素敵なところもあるよ!」と話したりして、自分の良さに気づけるきっかけにすることが重要かなと。
りょうま
子どもたちの変容は、どうやって確認するんだろう?
みみ
自分で見取ったり、担任の先生に聞き取りをしたり、児童本人による感想や・・・あと、「自己肯定―自己否定」「他者肯定―他者否定」がグラフ化されるOKグラムというものを使ったり。
はぎの
自分の中でイメージしているゴールはある?
みみ
今、支援しながら観察をしたり、担任の先生からお話を聞いたりしているんですけど、自己肯定感が低かったり、友達に対して「ちくちく言葉」が多かったりする児童もいて。ロールレタリングを通して、自分の良さに気づいてもっと自分のことを肯定的に受け入れられたり、友達に対しても「ふわふわ言葉」が増えたり、協力して楽しく関わったりする姿が見られたらいいなと思います。
りょうま
ぼくの卒業研究は説明が難しいんですけれど(笑)、砂川先生の指導でトレーニング科学の研究をしていています。研究には砂川先生が研究されている分野を行っていて、砂川先生はレジスタンストレーニングを「速度」に注目して研究しているんです。従来の方法では自分が最大どれだけ持てるかの重量を基準にトレーニングを行っているんですが、その最大どれだけ持てるかという重量は日によって変動してしまいます。例えばみみさんが、バーベルを今日は最大で30kg持てますよ! という状態でも、翌日は32kgまで持てるかもしれないし、逆に28kgしか持てないかもしれないんです。つまり日によって基準にばらつきが出てしまう。それに比べてバーベルを挙上する速度に関してはばらつきが少なく、日によって最大どれだけ持てるかという重量は変わっても最大持てる重量を挙上する速度はほぼ変化がないんです。なので、速度を基準に重量を設定すればその日のコンディションに合わせてトレーニングができるんです。
はぎの
・・・(よくわかっていない)。
みみ
・・・(よくわかっていない)。
りょうま
難しいですよね(笑)。たとえば、後輩たちにベンチプレスをやらせて・・・
はぎの
後輩たちが実験台ね(笑)。
りょうま
はい(笑)、後輩たちにベンチプレス10回を課して速度を測り、7回目で明らかに速度が落ちるデータが取れたら、その人の適性は7回なんだなと考えたりという研究をします。
はぎの
要するにグラフの世界?重量が縦軸で速度が横軸で、それを掛け合わせてトレーニング効果を数値化する中で、「重量」ではなく「速度」のほうを操作して身体への負荷をコントロールしようということかな?
りょうま
そうですそうです。
みみ
これって、タイマーで測るんですか?
りょうま
ボックスみたいな専門の機械があって、その機械から出ている紐の先をダンベルに結んでやってからダンベル運動をすると、すぐにモニターに速度がぴよんって出るんですよ。その機械は、目安の速度に対して何%にまで落ちたら終了しますといった設定もできるんです。
みみ
へえ~!
りょうま
ベロシティベースドトレーニング、略称VBTっていうんですけど、この方法のメリットは、その人に合った負荷、みみさんならみみさん、萩野先生なら萩野先生の負荷を設定してトレーニングができることで、ダンベルが一つしかなくても速度さえ変えれば、その人に合ったトレーニング、その日の体調に合ったトレーニングができるんです。
はぎの
りょうまさんが、その題材を卒研のテーマに選んだのはいつごろ?
りょうま
ぼくはゼミ決定もすごく迷っていて、実はスポーツメンタル的なこともやりたいと思っていて、スポーツメンタル系の研究かトレーニング系の研究かずいぶん迷ったんですけど、砂川先生のところに話をしに行って。話しているうちになんだかいつのまにか砂川ゼミに入ることになって・・・
みみ
(笑)。
りょうま
先生の話を聞くうちに興味も出てきたし、紹介されてVBTの論文を読んでみたら面白くて、3年次の夏には卒業研究の方向性が固まっていました。
はぎの
それは順調だね。ゼミに同学年の仲間はいるの?
りょうま
同学年の女子が一人、その子はスクワットで研究するんですけど、意見を交換し合ったりできて、助かります。
はぎの
卒論ゼミ仲間はいてほしいよね。ちなみにみみさんは?
みみ
私も仲間が一人いて、その子のテーマはロールレタリングではないんですけど、いつも一緒に「ここどう思う?」って相談したり、アドバイスし合ったりして、心の支えになってます。
はぎの
二人とも、心強くて頼もしい指導教員の先生と仲間がいるんですね。そして、二人がそれぞれに自分の卒業研究に熱い思いを抱いていることが、ビシバシ伝わってきました。どうか楽しんで研究してくださいね!
りょうま
はい!
みみ
はい!
はぎの
無事に卒業研究を仕上げる前提で(笑)、二人はどんな教員になりたいと思っていますか?
りょうま
子どもたちにとってという視点でいうと、親しみやすくも、どこか先生らしさがにじみ出ているような教員に、なりたいですね。教育実習のとき、自分は塾の講師もしているから子どもたちと馴染むことは難しくなくて、仲良く話はできたんです。けれども、やっぱり先生という立ち位置であることも重要だというのは感じていて、わかっていてもそこが難しかった。親しみやすいけれども、先生として子どもたちの上に立っている、というのが自分の理想です。あくまでも友達ではなく、悩み事も「先生は大人だから相談したい」「先生の視点でアドバイスがほしい」と思ってもらえたら。
はぎの
大切なことだよね。友達のような感覚でしかない先生だと、ほんとの悩みを相談してもらえないかもしれないから。
りょうま
あと、職業としての教員という視点でいうと、余裕のある先生になりたい。いま、教員の多忙感がしきりに話題になりますけれど、自分の時間は絶対に確保したいです。だから、スケジューリングだとか、To Doリストだとかをうまく活用して、自分の時間をつくっていきたいなと。
はぎの
ワークライフバランス。今の学校教員にはその点でマイナスイメージが付いて回っているけれど、二人が教員として活躍するころには、管理職や同僚、保護者の理解も深まっていてほしいし、そうなっていると信じたいな。先生が楽しく生活できていれば、仕事だって楽しくできるし、そうすると子どもたちにも「大人のモデル」として良い影響が与えられるはずだから。りょうまさんが言ってくれた二つの視点をかけあわせると、子どもたちにとって「理想の生き方をしている大人」としての教員像を思い描いているってことですね。
りょうま
はい!
みみ
私は、子ども一人一人を見て、その子の良さを引き出せる教員になりたいです。今は自己肯定感の低い子どもが多いと言われているので、私は子どもたちの良さをたくさん見つけて、褒めてあげたい。子どもたちが「自分なんてどうせ」とか「どうせできないよ」とか諦めてしまうのではなく、子どもたちについてたくさん気付いて、がんばりを褒めて、子どもたちがのびのびと成長できるような学級をつくりたいです。私は小学校5年生ごろまで全然手を挙げて発表できなくて、教科書の音読でも自分の番が近づくと心臓がどきどきするようなタイプだったんです。けれど、あるきっかけがあって、自分の中で「一日一回は発表しよう」って決めたことがあるんです。そしたら、担任の先生が気付いてくれて、授業中にみんなの前で褒めてくれたり、「最近頑張ってるね」って伝えてくれたり・・・それは、大袈裟に聞こえるかもしれないけれども、自分にとって人生が変わるきっかけになりました。それからは児童会の委員に立候補もするようになって。
りょうま
すごいな!
みみ
私も、そういう先生になりたいなって思います。
はぎの
最近の学校教育では「子どもを輝かせる」ってよく言うけれど、子どもが輝くためには、「あなた輝いてるよ」って承認してもらうことが大切ですよね。二人の話を聞いていると、それぞれ、中学校教師の理想と小学校教師の理想って気がしますね。二人は教員になるんだという思いが、今までぶれることはなかった?
りょうま
実は、ぼくは迷いがありました。3年次のときに揺れてましたね。
はぎの
わりと最近までなのね・・・。
りょうま
周囲があまり教員志望じゃなくて、公務員志望だったりして。ぼく自身も「教員はブラック」という話を耳にしてしまうので、「せっかく職についても身体を壊すくらいなら、公務員でもいいか」と傾いていたんです。そんなとき、高卒で働いている中学時代の友人と食事をする機会があって、「教育学部だからやっぱり先生になるの?」って聞かれて、「大変だブラックだって聞くから迷ってる」と話したら、「なんでよ。自分も働いているけど、きつくない仕事なんてないよ」って言われたんです。そこでハッとして「確かに!」と思って。「将来の仕事をきついかきつくないかで選ぶんだったら、バイトでもいいじゃないか。純粋に自分が何をやりたくて大学に入学したか、それは体育の先生になることだったじゃないか。それにもしかしたら、思ったよりきつくない可能性だってあるじゃないか。やってもいない段階できついと決めてかかるのは違うんじゃないか?」って考えて。きついこともあるんでしょうけど、きついよりも楽しいほうが勝つかもしれないしって思ってます。
はぎの
ほんと、そのとおりだよね!楽しい生活をするためにはお金を稼ぐ必要があるし、お金を稼ぐことにきつさが伴わないはずがないものね。
りょうま
やってみて、死にそうにきつかったら、そのときに考えます(笑)。
みみ
私もりょうまさんと似ているんですけど、確かに教員はブラックだという言われかたを見聞きするけれども、それを怖がって、まだやってもいないのに教員を諦めて教員以外の職に就いたら、きっと人生後悔すると思っているんです。小さい頃からやってみたいと思っていた職業だし、せっかくこうして大学で教員について学んできたんだし、何より興味があるしって考えると、まずは教員をやってみようと。あと、さっきもお話ししたように小学校で入り込みの支援をしている中で、職員室で先生方のお話を聞く機会があるんですけど、もちろん大変なことはあるにしても、先生方が子どもたちについて愛情たっぷりに話してくださるんです。私もそういうふうに子どもたちに愛情を注ぎたいし、先生方の姿に憧れもするので、こうして教員への思いが続いています。
はぎの
自分にとってモデルになる先生の存在は、教職へのモチベーションを持続させるうえで、貴重ですよね。
はぎの
教育学部の魅力って、どんなところだと思いますか?逆に課題と感じるところがあれば、それも聞かせてください。
りょうま
教員になるうえでは、教育学部が絶対いいというのは実感しています。教員になるにあたっての手厚い支援、サポートを受けられるのは、教育学部に来るメリットですよね。附属学校があって、1年次から学校現場を見られるのも大きいし、教職科目が卒業単位にそのままなってくるので戸惑いも少ないですし。保健体育で言えば、「教育法C」(※10)でがっちり授業を構想して指導案を書く訓練を受けるので、不安もありますけど自信をもって実習にも行けますし。あと、琉球大学の教育学部っていうことで、沖縄の教育の事情や地域的な特色、平和教育の問題などについても授業で知れるのも大きいです。沖縄で先生になりたいのであれば、琉球大学教育学部を薦めたいです。
はぎの
教育学部、ここが良くないよねと思うことはない?
りょうま
中学校教育コースの学生が小学校教員免許を取りたい場合に、必要な科目の履修が後回しにされてしまって、4年次までかかってしまうことです。もう少し仕組みを改善できないかなと。
はぎの
それは、実は私たち教員も自覚している課題なんです。今は国も、二枚免許の取得を勧めているから(※11)、教務委員会という委員会を中心に改善を考えているところです。
みみ
教育学部のいいところは、みんな仲良くて、何かに取り組むときに協力してできることかなと思っています。雰囲気が、楽しむときは楽しむ、やるときはやる、という感じで、しかも「やる」となったら教育実習でも模擬授業でも行事の企画でも、誰かに押しつけることはなく、互いに助け合って、一緒にいいものをつくっていこう!って自然になるんですよね。みんなで一緒にがんばろうってなれる仲間がいると、刺激にもなるし、成長し合えるし、いい環境だなって思います。同学年だけでなく、先輩たちもすごく優しくて、教員採用試験の対策でも、先輩たちのほうから「教えるよ」って言ってくれます。卒業して現場に出ている先輩ですら、「何かあったら言ってね」「採用試験が近づいて最近忙しいんじゃない?無理しないでね」と声をかけてくれるんです。忙しいのは先輩のほうだと思うんですけど(笑)。
はぎの
先輩たちも、「みみは今が頑張りどころ!」と思ってるんでしょうね(笑)。教育学部の悪いところは・・・。
みみ
嘘っぽいから、何か悪いところも言いたかったんですけど、見つからない(笑)。ほんとうに嘘みたいですけど(笑)。
はぎの
無理に見つけなくてもいいよ(笑)。いいところだよ!ってことで(笑)。
りょうま
いいところです!(笑)。
はぎの
最後に、高校生に対してというイメージで、教育学部をめざす人へのメッセージをお願いします。
りょうま
さっきも話したように、教員になりたいのであれば、これ以上の環境はないと思うので・・・「迷ってるんだったら来なさい」(笑)。教員がブラックだ、きついっていう言葉に惑わされることもあると思うんですけど、少なくともこの記事をホームページとか冊子とかで読んでいる人は、教員に興味を持っていると思うので、それなら教育学部に飛び込んでほしい。やりたいんだったら、やりたい思いに素直に従って!琉球大学教育学部、特に保健体育専修をお薦めします(笑)。
みみ
(笑)。
はぎの
力強いメッセージをありがとう(笑)。
みみ
教育学部は個性のある人も沢山いるし、頑張り屋さんもほんとうに多くて、刺激を与えられて自分が成長できるところだと思います。学校に、先生という仕事に興味があるのであれば、それらについて深く学ぶことができます。高校までは何かを覚えるだけという浅い学びにとどまりがちだけれど、教育学部に進学して深く学ぶ機会が増えて、「あ、そうだったんだ」と今まで気付かなかったことに気付かされることも多くて、ほんとうに面白いです。ぜひ来てください!
はぎの
こちらも力強いですね(笑)。今日はとても楽しく二人の話を聞くことができました。二人にとっても、足もとを見つめ直す機会になってくれたら嬉しいです。
みみ
はい!ありがとうございました!
りょうま
はい!ありがとうございました!