教育学部本棟の入口前には、モモタマナの樹が大きく枝を広げています。高さ80cm半径6mほどの円形の盛土の上に植樹され、二重段差のコンクリートで囲われています。そのコンクリートの高さは、人が座るのに丁度良い高さです。周囲には、本棟の他に音楽棟、技術棟、工芸棟、教育実践棟(教職センター)、放送大学棟があり、モモタマナの樹はさしずめ広場の中心に鎮座しています。
モモタマナの樹の周りは比較的賑やかで、学生が集まって談笑したり、昼食を食べたり、グループで待ち合わせたりなど、学生が集う場所になってます。そして、教育学部学生が卒業するときには、必ず、卒業証書授与式後にこの前で記念撮影をします。
そんな教育学部のアイコン的な存在であるモモタマナの樹の周りでも、2020年初頭から世界的に広ったコロナ禍の時期には、全く学生がいなくなりました。ICT活用が劇的に進み、大学での講義や様々な事務手続きが全てリモートになりました。渋滞の中を大学に通学する煩わしさもなくなり、各段に便利になりました。しかし一方で、学生同士や教員との関係が疎遠になり、大学へのコミュニティ意識が希薄になりました。学生達には望まない社会的孤立をもたらし、心身ともに悪影響を与えることも分かりました。
大学生ですら大きな影響があったので、児童生徒ではなおさらです。初等中等教育では集団活動はとても重要なのです。インターネットが高度に発達し、自宅に居ながらにして多くの情報が得られ、生成系AIやロボットが進化して、極限まで業務効率化が図られ、従業員が不要になっても、学校教育は人が担いつづけるでしょう。児童生徒への教育を、もはや人間には検証すらできない機械学習による判断基準で提供されたAI教材に丸投げするような未来にしてはいけないのです。
人間は社会的動物です。マズローが唱える欲求5段階説では社会的欲求・承認欲求・自己実現などの高次の欲求は総じて人間関係が基盤になります。そして、社会にでるとき、就職するときに求められる能力は、リーダーシップ、周囲を巻き込む力、ファシリテーションスキル、コミュニケーション能力、行動力などです。全て対人関係です。教員は、成長期である児童生徒が対人関係を構築する手助けを行う重要な役割を担っているのです。
琉球大学教育学部は定員140名と比較的少人数です。高等学校の3~4クラス分でしょうか。一般的に、定期的に接触して、顔と名前が覚えられ、意味のある関係を維持できる人数としてダンバー数があります。上限は約150人とされ、この意味でもほどよい学生数です。同級生の顔と名前が覚えられるので、とても穏やかな雰囲気です。同じ目標に向かって、教員という将来像を共有し合える仲間と切磋琢磨し、互いに励まし合いながら4年間の大学生活を過ごすことができます。同じ沖縄県で教員就職することが多いので、卒業後も長い交流関係を築くことができます。
琉球大学教育学部に入学する学生の6割が沖縄県出身者であり、卒業生のうち教員就職者の7割が沖縄県教員となっています。沖縄県外出身でも沖縄に魅了されて、沖縄県での教員就職を決断する学生が多いようです。
冒頭のモモタマナの樹は、常緑樹ばかりの沖縄県には珍しい落葉樹で、理科の教材としても取り上げられます。また、「踊くはでさ節」「屋慶名クワディーサー」など、沖縄民謡、琉球古典音楽でも歌われているようです。ガジュマルやデイゴほど沖縄メジャーではありませんが、琉球大学教育学部に入学し、この地味に沖縄で愛されるこのモモタマナの樹に集いませんか。
教育学部長 小野寺 清光